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イーハトーボ農学校の春

<p>太陽たいようマジックのうたはもう青ぞらいっぱい、ひっきりなしにごうごうごうごう鳴っています。 わたしたちは黄いろの実習服じっしゅうふくを着きて、くずれかかった煉瓦れんがの肥溜こえだめのとこへあつまりました。  冬中いつも唇くちびるが青ざめて、がたがたふるえていた阿部時夫あべときおなどが、今日はまるでいきいきした顔いろになってにかにかにかにか笑わらっています。ほんとうに阿部時夫なら、冬の間からだが悪わるかったのではなくて、シャツを一枚まいしかもっていなかったのです。それにせいが高いので、教室でもいちばん火に遠いこわれた戸のすきまから風のひゅうひゅう入って来る北東の隅すみだったのです。  けれども今日は、こんなにそらがまっ青さおで、見ているとまるでわくわくするよう、かれくさも桑くわばやしの黄いろの脚あしもまばゆいくらいです。おまけに堆肥小屋たいひごやの裏うらの二きれの雲は立派りっぱに光っていますし、それにちかくの空ではひばりがまるで砂糖水さとうみずのようにふるえて、すきとおった空気いっぱいやっているのです。もう誰だれだって胸中むねじゅうからもくもく湧わいてくるうれしさに笑い出さないでいられるでしょうか。そうでなければ無理むりに口を横よこに大きくしたり、わざと額ひたいをしかめたりしてそれをごまかしているのです。<br></p>


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宮沢賢治

宮沢賢治

岩手県出身の詩人・童話作家。代表作に「銀河鉄道の夜」「雨ニモマケズ」などがある。自然や宇宙観を織り交ぜた作品で知られる。



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