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<p>僕は日頃大雅(たいが)の画(ゑ)を欲しいと思つてゐる。しかしそれは大雅でさへあれば、金を惜まないと云ふのではない。まあせいぜい五十円位の大雅を一幅(ぷく)得たいのである。<br>大雅(たいが)は偉い画描(ゑか)きである。昔、高久靄崖(たかひさあいがい)は一文(いちもん)無しの窮境にあつても、一幅の大雅だけは手離さなかつた。ああ云ふ英霊漢(えいれいかん)の筆に成つた画(ゑ)は、何百円と雖(いへど)も高い事はない。それを五十円に値切りたいのは、僕に余財のない悲しさである。しかし大雅の画品を思へば、たとへば五百万円を投ずるのも、僕のやうに五十円を投ずるのも、安いと云ふ点では同じかも知れぬ。芸術品の価値も小切手や紙幣(しへい)に換算出来ると考へるのは、度(ど)し難い俗物ばかりだからである。<br></p>


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芥川龍之介

芥川龍之介

(あくたがわ りゅうのすけ、1892年〈明治25年〉3月1日 - 1927年〈昭和2年〉7月24日)は、日本の小説家。号は澄江堂主人(ちょうこうどうしゅじん)、俳号は我鬼(がき)。東京出身。『羅生門』『鼻』『地獄変』『歯車』などで知られる。



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