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 口々にわめく酔いどれの声々が混乱して、たちまち急霰きゅうさんの拍手が起こった。  自然に開かれた人垣の中を、浮き浮きとステップをふむようにして、室の中央に進みでる一人の婦人。まっ黒なイブニング・ドレスに、まっ黒な帽子、まっ黒な手袋、まっ黒な靴下、まっ黒な靴、黒ずくめの中に、かがやくばかりの美貌が、ドキドキと上気して、赤いばらのように咲きほこっている。 「諸君、御機嫌よう。僕はもう酔っぱらってるんです。しかし、飲みましょう。そして、踊りましょう」  美しい婦人は、右手をヒラヒラと頭上に打ち振りながら、可愛らしい巻舌で叫んだ。


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江戸川乱歩

江戸川乱歩

江戸川 乱歩は、日本の推理作家、怪奇・恐怖小説家、アンソロジスト。日本推理作家協会初代理事長。位階は正五位。勲等は勲三等。ペンネームの由来は、小説家のエドガー・アラン・ポーのもじり。本名は平井 太郎。 大正から昭和期にかけて活躍し、主に推理小説を得意とした。



1 Comments

緑川夫人 2025/06/05 16:55

おほほほ。

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