カテゴリ: Music

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青猫

私の情緒は、激情(パツシヨン)といふ範疇に屬しない。むしろそれはしづかな靈魂ののすたるぢやであり、かの春の夜に聽く横笛のひびきである。 ある人は私の詩を官能的であるといふ。或はさういふものがあるかも知れない。けれども正しい見方はそれに反對する。すべての「官能的なもの」は、決して私の詩のモチーヴでない。それは主音の上にかかる倚音である。もしくは裝飾音である。私は感覺に醉ひ得る人間でない。私の眞に歌は... 続きを読む about 青猫

By 萩原 朔太郎 50 2025-07-01 23:04:56

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澄江堂雑記

<p>僕は日頃大雅(たいが)の画(ゑ)を欲しいと思つてゐる。しかしそれは大雅でさへあれば、金を惜まないと云ふのではない。まあせいぜい五十円位の大雅を一幅(ぷく)得たいのである。<br>大雅(たいが)は偉い画描(ゑか)きである。昔、高久靄崖(たかひさあいがい)は一文(いちもん)無しの窮境にあつても、一幅の大雅だけは手離さなかつた。ああ云ふ英霊漢(えいれいかん)の筆に成つた画(... 続きを読む about 澄江堂雑記

By 芥川龍之介 60 2025-07-01 23:01:49

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魔術

ある時雨(しぐれ)の降る晩のことです。私(わたし)を乗せた人力車(じんりきしゃ)は、何度も大森界隈(おおもりかいわい)の険(けわ)しい坂を上ったり下りたりして、やっと竹藪(たけやぶ)に囲まれた、小さな西洋館の前に梶棒(かじぼう)を下しました。もう鼠色のペンキの剥(は)げかかった、狭苦しい玄関には、車夫の出した提灯(ちょうちん)の明りで見ると、印度(インド)人マティラム・ミスラと日本字で書いた、これ... 続きを読む about 魔術

By 芥川龍之介 75 2025-07-01 23:01:25

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月に吠える

私は君をよく知つてゐる。さうして室生君を。さうして君達の詩とその詩の生ひたちとをよく知つてゐる。『朱欒』のむかしから親しく君達は私に君達の心を開いて呉れた。いい意味に於て其後もわれわれの心の交流は常住新鮮であつた。恐らく今後に於ても。それは廻り澄む三つの独楽が今や将に相触れむとする刹那の静謐である。そこには限りの知られぬをののきがある。無論三つの生命は確実に三つの据りを保つてゐなければならぬ。然る... 続きを読む about 月に吠える

By 萩原 朔太郎 45 2025-06-30 20:19:57

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高野聖

岐阜ぎふではまだ蒼空あおぞらが見えたけれども、後は名にし負う北国空、米原まいばら、長浜ながはまは薄曇うすぐもり、幽かすかに日が射さして、寒さが身に染みると思ったが、柳やなヶ瀬せでは雨、汽車の窓が暗くなるに従うて、白いものがちらちら交まじって来た。 (雪ですよ。) (さようじゃな。)といったばかりで別に気に留めず、仰あおいで空を見ようともしない、この時に限らず、賤しずヶ岳たけが、といって、古戦場を指... 続きを読む about 高野聖

By 泉鏡花 88 2025-05-24 22:46:00


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